「新高」栽培は台風との戦い ~先人の知恵に学ぶ~
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高知県は台風銀座と呼ばれており、台風の上陸数は全国第2位で(下表)、上陸の度に強風により「新高」の落果被害が発生してきた。台風常襲県で果実が大きくて収穫時期が遅い「新高」を栽培するのは大きなリスクを負っていることになる。
そのため、先人の生産者達は並々ならぬ努力で台風対策の技術の開発を行ってきた。
順位 |
1 |
2 | 3 | 4 | 5 |
県名 | 鹿児島県 | 高知県 | 和歌山県 | 静岡県 | 長崎県 |
上陸数 | 39 | 25 | 22 | 19 | 4 |
※統計期間:1951年~2015年台風第8号まで
(1)立地条件の選定
台風の被害は、その上陸するコースにより大きく異なる。高知普及所管内の「新高」の産地で被害が甚大となるコースは県西部を北上する場合である。その際、強風は南から西風になるため、傾斜地での栽培はそれらの風が当たりにくい北斜面を利用して行っている(下写真)。

(2)防風対策
立地条件だけでは風による被害を回避することはできない。そのため、産地では、古くはタケを縦に割り並べ組んだ防風垣の設置や、杉やイヌマキで防風林を作ってきた。ただ、タケは朽ちるため数年に一度変える必要があり、防風林は大きくなるので刈り込み管理が必要であった。そのため、近年は労力がかからない防風ネットの設置(下写真)が一般的であるが、これも交換にはコストがかかる。

(3)パイプ棚
ナシの果実の落果は、風による果実の揺れで、果梗部(へたの部分)が枝から離れてしまうために起こる。揺れは横揺れより縦揺れの方が影響が大きい。このため、全国各地のナシ産地でみられるような吊り上げ式の鉄線棚では果実が縦揺れし落ちやすい。そこで、高知県はパイプでがっちり棚を組み、棚の縦揺れができるだけ小さくなるように努めている。ただ、全てをパイプ棚にするとコストが高いので、骨組みはパイプを用い、パイプ間に丈夫な線(エスター線)を用いる棚が多い(下写真)。

(4)大袋がけの工夫
果実の外観を重視する「新高」において袋掛けは必須の作業になる。他県ではこの袋掛けの袋の結び目は労力をかけないように果梗部(へたの部分)で行っていた。しかし、それでは強風に当たると袋部分が揺れ落果を招きやすい。そこで、高知県では写真のように袋の結び目を枝で行う「袋の枝がけ」を行っている。少し手間がかかるが、これにより落果は随分防ぐことができる。

(5)果実の吊り上げ
収穫間際の果実は1,000g近くになり、わずかな風でも落果しやすくなる。そこで、収穫間際の台風襲来時の対策として、直接果実を吊り上げる方法がとられる。昔はわら等を用いて吊るしていたが、最近ではナイロン紐やミカンの小売り用の赤いネット、あいるは岡山県で開発された技術で下写真のようなガムテープの利用などがある。


このようにいろいろな対策を立てても、台風の力にはおよばない時があり、半作や全滅したりする年もある。
「高知の新高は大きく美味しいけど、値段が高い」という声はよく耳にする。ただ、台風襲来という大きいリスクとその対策にコストと労力が多くかかっていることも理解していただきたい。また、高知県の生産者は、リスクと戦いながら、手塩にかけて果実を育てた分、「新高」に対する思いは非常に強い。
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