ハウスミカンにおける炭酸ガス施用技術の開発

• はじめに

　高知県のハウスミカンは、栽培面積19ha、出荷量1，040tで、面積、出荷量ともに全国第4位の産地となっています(令和3年、農林水産統計)。ハウスミカンは、節水管理により水分ストレスを与えることで糖度を上げて高品質果実を生産しています。しかし、水分ストレスによって果実の肥大が抑制されるため、ハウスミカンで高品質と高収量を両立することは難しいとされています。そこで、高品質と高収量の両立を目的として、ハウスミカンにおける炭酸ガス施用技術の開発に取り組みました。

• ハウスミカンにおける炭酸ガス施用

　大気中の炭酸ガス濃度は約400ppmですが、日中のハウス内の炭酸ガス濃度は400ppm以下となり、300ppmを下回る時間帯もあります(図1)。光合成は収量に直結する要素の一つですが、ハウス内の炭酸ガス濃度が低下すると光合成能力も低下するため、炭酸ガスを施用して光合成能力を高めることが重要となります。収量を増加させるためには、果実を大きくすること、着果量を増やすことが考えられます。かん水量を増やせば果実が大きくなるため収量は増加しますが、果実の糖度が低下してしまうため、高品質果実の生産は難しくなります。また、着果量を増やすだけでは、果実が小玉化してしまうため、収量の増加には結びつきません。糖度を維持したまま収量を増加させるためには、着果量を増やしても小玉化しないような管理技術が求められます。

　　　　　　　　　　　　　　　　図１　日中のハウス内の炭酸ガス濃度推移（2020年2月3日、曇り晴れ）

• 炭酸ガス施用の効果

　炭酸ガスを施用することで、２つの効果が確認されました。
(1)生理落果の抑制
　生理落果は、果実、新梢、根の養分競合によって主に引き起こされます。炭酸ガスを施用して光合成能力を高めることで、養分競合が緩和されるため生理落果を抑制することができます。加温開始から加温停止まで炭酸ガスを施用し、濃度の設定を2，000ppm、600ppm、無施用の3処理区で比較しました。その結果、炭酸ガス濃度が高いほど、生理落果後の葉果比が低く、生理落果の抑制効果が確認されました(表1)。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　表1　炭酸ガス施用が生理落果に及ぼす影響

(2)果実の肥大促進
　加温開始から加温停止まで、炭酸ガス濃度を600ppmで施用し、収穫時の果実階級を施用前の年と比較しました。その結果、炭酸ガス施用前の収穫時の中心階級はS級であったのに対し、炭酸ガス施用後の中心階級はM級となっており、施用によって果実は大きくなる傾向でした。これは、光合成能力が高まったことで、果実の肥大が促進されたためと考えられました。また、炭酸ガス施用時に着果量を増やしても、果実の小玉化はみられず、中心階級は炭酸ガス施用前と同等のS級となりました(図2)。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　図2　炭酸ガス施用と着果量が収穫時の果実階級に及ぼす影響

• 炭酸ガス施用による収量増加について

　炭酸ガス施用により、光合成が盛んになることで生理落果が抑制され、従来の栽培よりも着果量を増やした管理が可能となります。また、着果量を増やしても果実の肥大が促進されるため小玉化を抑制できます。実際に、加温開始から加温停止まで炭酸ガスを600ppm設定で施用し、着果量を増やして管理することで、収量は炭酸ガス施用前と比べて18％増加し、糖度は13度以上でした(表2、図3、4)。このことから、ハウスミカン栽培において炭酸ガスを施用することで、高品質と高収量の両立は可能であると考えられました。

　　　　　　　　　　　　　　　　　表2　炭酸ガス施用と多着果管理が収量および糖度に及ぼす影響

　　　　　　　　　　　　　　図3　多着果管理の樹　　　　　　　　　　　　　　図4　慣行着果管理の樹

• おわりに

　本栽培方法では、着果量の増加に伴い、樹体の様子や果実サイズを確認しながら、かん水量を調節することが必要です。そのため、現在果樹試験場では、かん水指標として樹体の水分ストレスの非破壊測定方法の開発に取り組んでいます。また、収量の増加に合わせて施肥量等の栽培管理を見直し、炭酸ガス施用時の栽培マニュアルを作成する予定です。

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