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グリーンフォーカス 令和3年7月号

農業技術センター果樹試験場 : 2021/07/01

ニホンナシ「新高」の簡易環境制御による温暖化対応技術

  • はじめに

 ニホンナシ「新高」は高知県を代表する特産果樹であり、栽培面積は67ha、生産量は1,220t(R3高知県の園芸)で、本県ナシ生産量の76%を占めています。近年、暖冬による開花・発芽異常の発生や夏期の高温・乾燥によるみつ症の多発により、生産量の減少や品質低下が問題になっています。
 開花・発芽異常は低温積算時間の不足によって引き起こされると考えられています。「新高」は7.2℃以下の低温に1,000時間以上遭遇しないと正常に開花しないとされており、2007年や2020年は1000時間に到達せず、開花・発芽異常が多発しました。また、みつ症は、7月から9月の高温と乾燥により発生が助長されると言われており、7月の気温が平年より高く、降水量が少なかった2018年ではみつ症が多発しました。開花発芽異常を軽減する技術はなく、またみつ症は、夏期に遮光ネットの被覆やかん水により発生が軽減されたデータはありますが、大量の水の確保や遮光ネットの被覆が容易ではないため導入している農家はほとんどいません。そこで、暖冬や夏期の高温・乾燥に対応できる簡易環境制御による省力的かつ低コストの温暖化対応技術の開発を行いました。


  • 暖冬に対応した技術

 果樹試験場では冬期に遮光ネットをポット苗に全面被覆することによって、樹体温度の上昇を抑制し、100時間程度の低温積算時間の補填効果があることを明らかにしました。しかし、全面被覆は樹体が大きくなるほど実施が難しく、棚の上に遮光ネットを水平に展張する棚上水平展張は遮光ネットの管理作業が煩雑であることなど問題がありました。そこで、全面被覆や棚上水平展張と比べ、作業の省力化が期待される棚上垂直展張について低温積算時間の補填効果の検討を行いました。
 落葉後の12月から3月中旬頃まで、幅2mの遮光率50〜60%の寒冷紗を棚面の東面、西面、南面に垂直に展張し(写真1)、樹体表面温度の変化を調査しました。また、場内の低温積算時間が950、1000時間に達したときに枝を採取し、最低温度18℃に設定されたハウス内にて水挿しを行い、開花率と出葉率を調査しました。寒冷紗の影に入った樹体部位の表面温度は影に入っていない部位より低く推移し、低温積算時間が足りていない950時間や必要最低限の1000時間において開花率、出葉率ともに無設置区より有意に高くなりました(図1)。この結果から、寒冷紗を垂直に展張することによって、低温積算時間が足りない状況でも、樹体の表面温度が低下させることで約50時間の低温積算時間の補填効果があることが示されました。
 今回使用した寒冷紗の場合、設置期間中の南面寒冷紗の影の長さは最長で3m程度だったので、展張をする場合には、3mごとに寒冷紗を展張するか、開花・発芽異常が多発する場所に限定して展張すると低温積算時間の補填効果が安定して得られると考えられます。



写真1 図1

 写真1 寒冷紗を設置した様子          図1 寒冷紗の有無が開花率と出葉率に及ぼす影響


  • 夏期の高温・乾燥に対応した技術の開発

 みつ症は前述したように夏期の高温・乾燥によって引き起こされるとされています。対策として、樹上散水によって発生が軽減されることが報告されていますが、「新高」では試験事例が少なく、効果が判然としていませんでした。そこで、果樹試験場では、樹上散水について試験を行い、みつ症の発生軽減効果について検証しました。
 2018年に霧状になるミスト散水資材を用い、8月1日から9月28日までの間、10時〜15時に5分散水、15分停止を繰り返し、みつ症の軽減効果について検討を行いました。散水区では、果実袋の表面温度や樹体表面温度の低下が見られ、みつ症の発生率及び重症果率は有意に少なく、軽減されていることが示されました(表1、2)。
 以上のことから、棚上散水を行うことによって、果実袋や樹体表面温度が低下し、みつ症の発生率及び重症果率を軽減できることが示されました。資材費は約37万円/10aであり、1日作動するのに必要な水量は1,500L/10aでした。資材の設置方法は、1分あたり0.04L/孔の細霧噴口を棚上1.5mの位置に1m×2m毎に設置し、10aあたり約500個設置しました。ただし、汚れ果の発生を招かないためには果実袋が濡れない細霧噴口を使用して下さい。


            表1 棚上散水による果実外観への影響(2018年)


表1

       表2 棚上散水による果実品質への影響(2018年)


表2

  • おわりに

 2020年の7.2℃以下の低温積算時間は800時間(高知気象台)しかなく、各産地で開花・発芽異常が起こりました。今後も温暖化による生育異常は起こりえると考えられます。ご自身の園地の条件や状況に合わせて、今回の技術を利用していただきたいと思います。