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グリーンフォーカス 令和2年12月号

中央西農業振興センター 農業改良普及課 : 2020/12/01

酒造好適米「吟(ぎん)の夢(ゆめ)」の生産振興

  • 地域の現状と活動の背景

 県中西部に位置する土佐市は仁淀川の支流、波介川流域の中山間地域で、約350haの水稲が作付けされています(図1)。


図1

図1 土佐市の位置


 本県における主食用米価格は平成26年以降低迷したまま栽培面積が漸減しています。一方、酒米は価格が安定しており栽培面積は増加してきました。そのような中、土佐市の地元酒造会社からは酒造適性の高い土佐市産「吟の夢」の更なる生産拡大と品質向上が望まれていました。

 そこで普及課では平成28年度から、「吟の夢」生産者3名を対象に、栽培講習会や実証ほでの調査及びその結果に基づく地域版栽培暦による「吟の夢」の品質向上に取り組んできました。しかし、生産者、地元酒造会社及び関係機関全体での連携の場が少なく、酒造会社の求める品質や量に十分応えられていませんでした。そのため酒米生産者の所得向上にもつながっていませんでした。また、平成30年度に栽培を始めた生産者と以前から生産していた熟練生産者の反収の差が大きいことなどが、「吟の夢」の生産拡大、品質向上に取り組む上で課題となっていました。そこで平成30年度からはこれまでの活動に加え、生産者及び地元酒造会社・関係機関の連携体制の構築、新規生産者の栽培技術向上、新たな生産者の掘りおこしなど、土佐市産「吟の夢」の生産拡大・品質向上に取り組みはじめました。


  • 活動の具体的内容

(1)地域版栽培暦の作成と改訂

 「吟の夢」の田植え時期や栽植密度等は熟練生産者の経験から明らかになっていましたが、元肥や穂肥の施用時期や量、収量や品質の最も良い収穫適期については不明な点が残されていました。そこで現地実証ほを設置し、平成28〜30年度は出穂後日数別に収穫を行い、収量と品質について調査、分析を実施しました。令和元年度は、元肥の違いによる生育状況や収量・品質について調査、分析を行いました。これらの結果を基に地域版栽培暦を作成・改訂し、栽培指導に活用しました。


(2)栽培技術の向上

 生産者の栽培技術を向上させるための栽培講習会に加え、県内外の先進地への視察研修や品質評価会への出品支援を行いました。特に新規生産者には、穂肥や収穫適期の勉強会等への積極的な参加を呼びかけ、現地巡回等では熟練生産者とともにほ場に入り、お互いの栽培技術向上のために意見を交換する場を設けました(図2・3)。


図2

図2 新規生産者を対象とした穂肥勉強会


図3

図3 収穫適期勉強会


(3)更なる生産の拡大

 関係機関で「吟の夢」の生産拡大について協議を行い、既存の生産者への更なる栽培面積拡大の啓発を行いました。また土佐市の水稲生産者を対象に、酒米の経営に関する説明や生産者同士のつながりを利用した呼びかけを行い、新たな生産者の掘りおこしに取り組みました。


(4)研究会の設立支援

 平成30年度、普及課は地元酒造会社の酒蔵見学会を開催し、生産者が地元酒造会社のニーズを直接聞き、加工の視点から「吟の夢」の品質について学ぶ機会を設けました(図4)。さらに栽培反省会にも地元酒造会社に参加してもらい、関係者全体で連携した「土佐市吟の夢研究会」の設立を支援しました(図5)。


図4

図4 地元酒造会社の酒蔵見学会


図5

図5 栽培反省会


  • 活動の成果

(1)地域版栽培暦の作成と改訂

 「吟の夢」の収穫適期は、高知県の栽培基準では出穂後35日程度ですが、現地実証ほの結果より当該地区では出穂後30日程度であることが判明しました。元肥については、試験的に導入した「塩化燐安284号」に比べ、慣行で使用していた「コシヒカリ専用化成」が収量・品質共に優れていることが明らかになりました。このような実証結果を反映した地域版栽培暦(図6)により、新規生産者への円滑な指導や適期での収穫が可能となり、生産者の栽培技術向上に寄与しました。


図6

図6 地域版栽培暦の改訂(H31.4月)


(2)栽培技術の向上

 栽培技術の向上により、土佐市の「吟の夢」生産量は29tから37tに増加し、1等米比率は16%から85%に向上しました。平成29年度には土佐市産「吟の夢」が本県産の酒米で初めて「特等米」に格付けされたことから、平場の主要産地として県内酒造会社から評価されるようになりました。また新規生産者の研修会等への参加率は100%と非常に高く、栽培技術が短期間で向上したため、平成30年度には高知県酒米品評会において、新規生産者の1人が奨励賞を受賞しました。


(3)更なる生産の拡大

 生産者及び関係機関の呼びかけにより、「吟の夢」生産者は3名から8名に増加しました。また既存の生産者の面積拡大もあり、「吟の夢」栽培面積は5.8haから10.8haにまで拡大し、生産量は29tから37tに増加しました(表1)。

年 度

面 積
(ha)

戸 数
(戸)

出荷量
(t)

H28 5.8 3 29
H29 4.9 3 22
H30 9.2 7 37
R元 10.8 8 37

 

表1 「吟の夢」栽培面積等の推移


(4)研究会の設立支援

 平成30年度、「吟の夢」生産者、地元酒造会社、土佐市、農業革新支援専門員、普及課からなる研究会を設立し、「吟の夢」の高品質・安定生産に関して関係機関で連携する体制が構築されました(図7)。
生産者や地元酒造会社、土佐市が連携したことで、生産・加工等の各分野への理解が深まるとともに研究会で目標を共有することができ、「吟の夢」の高品質・安定生産に向けて足並みをそろえることができました。


図7

表7 「土佐市吟の夢栽培技術研究会」


  • 今後の展開

 現在は新型コロナウイルスの影響で日本酒需要が急減し、栽培面積の見直しが迫られています。今後、中央西農業振興センターでは一層の栽培技術の向上を図るとともに関係機関と連携し、ふるさと納税などを生かした日本酒の需要喚起に取り組みます。