グリーンフォーカス 令和7年12月号
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野芝を用いた畦畔法面の雑草管理の省力化技術の検討
- 取組の背景
四万十町の集落営農法人や第三セクター等では、農地集積が進み、管理規模の拡大に伴い、傾斜がきつい畦畔法面の雑草管理が増加しています。
作業者が高齢化し、労力不足が進む中、草刈り作業は主に刈払機で行われており、危険な作業で、夏季は特に肉体的・精神的な負担となっています。
そこで、令和4年度から野芝を畦畔法面に定植し、選択性除草剤を散布して定着を促すことで、刈払機による草刈り回数を減らす雑草管理の省力化を検討しました。
- 実証内容
(1)対象組織・設置場所
(農)藤ノ川ファーマーズ・四万十町藤ノ川
(2)実証区
1)面積等:121.2㎡、傾斜角度30度から40度
2)育苗(露地)
・使用器具等:128穴セルトレイ、培土「土太郎」
・ランナー挿し:市販のマット苗のランナーを1節残した状態で切り取って1セル当たり1本挿し
・育苗開始日:令和4年6月7日及び令和4年6月9日(育苗期間:44日間及び46日間)
3)畦畔法面管理方法
・基肥:くみあい被覆NK化成エコロング203(100日タイプ)を1穴5g程度植穴に施肥
・栽植様式:50cm×50cm、1カ所1セル植え、4株/㎡
・追肥:くみあい被覆NK化成エコロング203(100日タイプ)及び苦土重焼燐を全面施肥(窒素4kg/10a、燐酸4kg/10a、加里2.7kg/10a)
・使用した選択性除草剤:グラスショート液剤200倍、アージラン液剤66倍、2,4-Dアミン塩1,000倍
・使用した非選択性除草剤:ザクサ液剤150倍
(3)慣行区
1)面積等:101.08㎡、傾斜角度30度から40度
2)畦畔法面管理
・刈払機で年5回適宜草刈り
(4)調査項目
・野芝の被度、作業時間、経費
- 結果の概要と具体的数字
(1)被度調査
野芝の被度は、定植後1年目(令和4年度)の冬に約10%でしたが、その後の管理で定着を促し、3年目(令和6年度)の8月にほぼ100%となり、畦畔法面を野芝で覆うことができました(図1、写真1)。
4年目(令和7年度)は、選択性除草剤が効きにくいカモジクサ(イネ科多年生)や、シソ科多年生雑草が増加し、約80%まで低下しましたが、非選択性除草剤をその雑草に部分散布したことで、雑草の広がりを抑えることができました(図1、写真2)。
図1 野芝の被度の推移
写真1 3年目の状況(令和6年10月)
写真2 4年目の状況(令和7年10月)
(2)作業時間
1年目は、実証区で野芝の育苗や定植作業等により8.4時間/100㎡多くなり、2年目は、選択性除草剤散布等で実証区が1時間/100㎡多くなりました。3年目及び4年目は、実証区で1.1時間/100㎡、1.5.時間/100㎡減少し、野芝の定着とともに作業時間が減少しました(表1)。
表1 年別作業時間の推移(令和7年10月末まで)
(3)経費
1年目は、野芝の資材費と育苗等の管理労賃で実証区が約12千円/100㎡多くなりました。2年目は、選択性除草剤散布等の経費により、実証区で約3.6千円/100㎡多くなりました。3年目及び4年目は、実証区で約1.8千円/100㎡、約3.5千円/100㎡減少し、野芝の定着により経費が削減されました(表2)。
維持経費の試算により、実証区の経費上昇分の回収は、7年目終了時に可能となることが分かりました(図2)。
表2 年別経費の推移(令和7年10月末まで)
図2 年別維持経費試算(累計)の推移
- 残された課題及び今後の展開
定植からおよそ2年半で野芝を定着させることにより、その後は慣行区よりも草刈り回数や作業時間を減少させ、雑草管理を省力化できることが分かりました。
しかし、野芝の定着までは、育苗や選択性除草剤の散布等による作業時間が増加するため、実証区の経費増加分を回収できるまでには数年かかると予想され、技術導入には中長期的な視点で考えていく必要があります。
また、今回使用した選択性除草剤は「水田作物(水田畦畔)」に登録があり、ショウガ等の水稲以外の作物には登録がないので、そのような作物との隣接ほ場では使用できないことや、水稲に飛散しないように注意が必要です。
今後は、野芝の定着後の管理を、より省力化につながる方法を検討していくとともに、水稲を栽培している集落営農組織等へ結果を共有し、省力化に対応した雑草管理の一手段として技術普及を進めていきます。
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