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グリーンフォーカス 令和7年5月号

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安芸農業振興センター 農業改良普及課・室戸支所 : 2025/05/01

トルコギキョウ栽培における地域に適した「低濃度エタノール土壌還元消毒」の普及

  • 地域の現状

 高知県の東部に位置する芸西村は、温暖な気候で日照時間も長いことから、全国屈指の冬春トルコギキョウの産地です。現在は、15戸の生産者が5.3haで栽培しています。高品質な切り花生産に向けて、病害虫対策にも力を入れていますが、近年、連作による土壌病害が増加しつつあります。以前は、フザリウム属菌による立枯病が問題となり、土壌くん蒸剤、小麦フスマや米ぬかを利用した土壌還元消毒が行われていましたが、平成30年頃から細菌性の土壌病害が顕在化し、新たな土壌病害対策の確立と普及が課題となっています。そのため、安芸農業振興センターでは、令和元年度から関係機関と連携し、「低濃度エタノール土壌還元消毒」(以下、低エタ土壌還元)の実証と普及に取り組んでいます。


写真1

↑写真1 立ち枯れ被害のほ場(実施前)


写真2

↑写真2 低濃度エタノール(1,000ℓタンク)

  • 活動内容

1 低濃度エタノール土壌還元消毒の実証ほの設置
 安芸農業振興センター、JA高知県、農業技術センター、専門技術員等の関係機関が連携し、令和元年度から低エタ土壌還元の実証試験を開始しました。立枯れ被害の大きかった2ほ場を実証ほとし、従来の土壌還元消毒との違いや処理方法を説明し、処理時には現地指導を行いました。処理中は、酸化還元電位計を設置し、土壌が還元状態になっているかを確認しました。
 また、実証ほで現地検討会を開催し、実証農家以外にも実際にほ場を見てもらうことで、効果の提示や疑問の解消を図りました。翌令和2年度は、芸西村での普及性を検討するため、実証ほを増やして4ほ場でフザリウム立枯病及び萎凋細菌病への効果を確認しました。

2 「グリーンな栽培体系への転換サポート」の活用
 低エタ土壌還元への生産者の関心が高くなっており、令和4年度からは、JAや県関係機関だけでなく、芸西村や国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、資材メーカー等とも連携し、「グリーンな栽培体系への転換サポート事業(以下、グリサポ)」を活用して、ほ場数を増やして普及をこころみました。令和6年度までの3年間で(1)実証試験、(2)マニュアルの作成、(3)産地戦略の策定に取り組み、低エタ土壌還元の普及を図りました。

(1)大規模な実証試験
 新たな生産者3戸を含め、実証ほの数を2倍に増やして実施しました。初めてのほ場も多かったことから、超音波式流量計でほ場ごとのかん水流量を計測し、基準となる濃度に希釈するための処理時間を指導しました。また、畝立て後に処理する場合、かん水チューブを畝の上に設置するため、芸西村の土質では処理後に土壌表面が硬くなり、定植に手間がかかることが明らかになりました。改善策を生産者と検討し、うね間処理が行われるようになりました。
 効果の検証では、枯死株率だけでなく、土壌中の菌密度の変化を把握するため、全ほ場で菌密度調査を行いました。処理の前後に表層と深層の土壌を採取し、青枯病、萎凋細菌病、フザリウム立枯病の菌密度を調査した結果、処理後はうね上から60cmの深さでも菌が検出されませんでした。令和6年度の検出割合では、処理前の26%から処理後は1.5%まで減少し、高い効果が得られました。


写真3

↑写真3 菌密度を調査する土壌を採取


写真4

↑写真4 検出された青枯病菌


(2)現地実践マニュアルの作成
 実証試験を行う中で、処理中の降雨による浸水や処理後の耕起により病害が抑制できなかった事例や、用水路から直接ほ場に水を流し込んで処理した事例等から得られた留意点を踏まえた「現地実践マニュアル」を作成しました。完成したマニュアルは、全国の生産者や関係機関が集まるトルコギキョウ生産者交流会で配付し、インターネット上でも公開しています。


写真5

↑写真5 完成したマニュアル


写真6

↑写真6 実証ほで低エタ土壌還元の効果を検討


(3)産地戦略の策定
 高知県と芸西村が実施主体となり、令和6年度に芸西村のトルコギキョウ栽培における今後の取組方針や目標を定めた産地戦略を策定しました。今後は慣行の土壌くん蒸剤での土壌消毒から、土壌病害対策及び環境負荷軽減に効果の高い低エタ土壌還元への転換に産地として取り組むようにしていきます。具体的には、5年後の取組面積の目標を現状の1.4haから2.4haに増加させる計画としています。


  • 地域の動きや活動の成果

 「グリサポ」では、3年間で延べ25ほ場で低エタ土壌還元の実証を行いました。複数年に亘って取り組んだことで、土壌病害による枯死株率は全ほ場で大幅に減少し、実施前の約20%から約1%まで減少しました。また、生産者自らで実施可能なレベルまで技術も向上しました。
 全国的には土壌くん蒸剤の使用が多いですが、芸西村では、実証ほ以外でも低エタ土壌還元が実践されており、生産者からの評価は非常に高い技術です。枯死株率の減少だけでなく、化学農薬の使用による環境への負荷や身体への負担が少ない点、処理方法が簡便な点も評価されています。事業は終了しましたが、実証農家からは「費用はかかるが、効果が高いので継続していきたい」との声も多く、全戸が継続し、次作では新たに2戸が実践する予定となるなど、地域に普及しています。さらに、トルコギキョウのみならず、園芸野菜生産者や県外の他産地からも高い注目を集めるまでになっています。


写真7

↑写真7 低エタ土壌還元実施ほ場の枯死株率の推移


写真8

↑写真8 立ち枯れのないほ場(処理後)


  • 今後の展開

 延べ6年間実証した低エタ土壌還元は、実証ほを設置した芸西村では高い評価を得ており、今後は、実証試験結果の共有や現地実践事例の紹介を県内他産地にも広く行うとともに、他品目への展開も考えています。また、ほ場の土質によって処理時のかん水量が異なるため、安定した効果が得られるように、今年度は、ほ場の土壌物理性を調査し、適正なかん水量を明らかにする計画です。
 以上のように、低エタ土壌還元をトルコギキョウ栽培の基礎技術として位置付け、生産および経営の安定化による産地の発展を促すことで、消費者への安定供給や環境負荷低減に向けた生産方式への移行に応えられる産地を目指します。




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