グリーンフォーカス 令和6年8月号
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食用サンショウの生産振興について
- 地域の現状
高知県中央西農業振興センター高吾農業改良普及所は仁淀川流域に位置し、管内では施設園芸や露地野菜、果樹、水稲、茶、食用サンショウ、薬用作物など気象条件を活かした多様な品目が栽培されています。
当地域の特産品のサンショウは越知町を中心に栽培されており、薬用サンショウ、食用サンショウを合わせると栽培面積が約53haの規模で、和歌山県に次ぐ全国第2位の産地となっています。
このうち、食用サンショウを生産している「越知町山椒組合」は、生産者22名が合計7.9haのほ場で栽培に取り組んでいます。
食用サンショウは生産者の高齢化等により栽培面積が減少していますが、サンショウの需要は年々増加しており、販売単価も上昇傾向が続いています。
「越知町山椒組合」の課題の一つとして、生産者により反収にばらつきが見られます(図1)。そこで、産地として出荷量を拡大していくために出荷量が低い生産者の個別の課題を把握し、適正な防除や施肥管理をすることで生産量の安定化に取り組みました。
サンショウの主要病害であるさび病は、令和5年度のさび病発生状況調査では7月から病害の発生が増加し、秋にはほとんどのほ場で発生が見られました。
さび病は激発すると早期に落葉し秋芽が発生する場合があります。これは草勢の低下につながり翌年の収量低下の原因となるため、防除の徹底が必要です。
また、食用サンショウは5月上旬に青実の出荷、6月末から7月末に乾燥実の出荷を行いますが、青実の収穫期間は10~14日、乾燥実の収穫期間も40日程度ですが、小さな果実を手作業で収穫するため収穫には労力を要します。
このため、令和5年度に「越知町山椒組合」の組合員を対象に収穫作業に係る雇用状況調査を行いました。
調査結果は、当面の収穫作業労力は臨時雇用によって確保できているが、今後の雇用の確保については不安を感じているとする内容でした。
- 活動内容(令和6年度までの活動)
(1)個別農家の課題に沿った重点指導
研修会の開催や啓発資料の配布によりさび病防除の徹底をはかりました。令和6年度は4月上旬、5月上旬にさび病の啓発資料を配付し、越知町山椒組合総会の場で防除の徹底について研修しました。
また、生育状況について問い合わせがあった農家には土壌分析に基づいて施肥指導等を行い、草勢管理を徹底しています。
(2)収穫作業労力の確保対策
1)圃場環境の改善による労働力確保の支援
令和5年度に行った収穫作業雇用状況調査のなかで、今後の雇用の確保について不安を感じる声があったことを受けて、収穫作業を行う圃場の環境を改善することで雇用の確保を図りました。
具体的には、県の補助事業「農業労働力確保対策事業」に越知町単独事業を追加する形で簡易トイレの設置や農作業ヘルパーの導入を支援することになりました。
2)農福連携による収穫作業労力の補填
令和6年の5月14日に青実収穫、出荷調製作業の農福連携体験研修を開催し、越知町に所在する就労継続支援B型事業所どんぐりの職員1人利用者4人、関係機関職員10人が参加しました。
青実の収穫作業については、鋏を使って花房ごと収穫する方法について研修しました。
出荷調製作業については、生産者が持ち込んだサンショウの青実を使って出荷箱の組み立て、選別、計量、箱詰め等の作業を研修しました(図2)。
図2 収穫作業体験の様子
- 活動の成果
(1)個別農家の課題に沿った重点指導
さび病防除の徹底と適正な施肥管理指導をこれまで継続して行ってきた結果、表年と裏年の収穫量の差が6.7tであったのが1.9tと小さくなり、反収も裏年が9.1tから15.3tと増加する傾向となっています(表1)。
令和6年度は資料の配付や研修実施の結果、農家からの問い合わせも増えており(4人:4月~6月)、さび病の適期防除や土壌分析に基づく施肥指導を徹底しました。
(2)収穫作業労力の確保対策
1)圃場環境の改善による労働力確保の支援
6月現在でサンショウの収穫作業を対象とした圃場環境の改善対策として、簡易トイレ購入に対する支援について申請が2件上がっており、ほ場環境を改善して女性農業者も働きやすい環境づくりを図る予定です(図3)。
図3 簡易トイレの説明会の様子
2)農福連携による収穫作業労力の補填
5月14日に開催した農福連携体験研修では収穫作業については就労継続支援B型事業所どんぐりから施設外就労によって収穫作業を行うには指導に当たる職員が不足していて実施は厳しいと話がありました。
出荷調製作業については就労継続支援B型事業所どんぐりにサンショウ33kgを持ち込み、就労継続支援B型事業所どんぐりの利用者3人が1時間程度の間に64箱を出荷できる状態にしました(図4)。
図4 出荷調整作業研修の様子
就労継続支援B型事業所どんぐりからは収穫物を持ち込むことで対応が可能と話があり、越知町山椒組合からは作業の正確さやスピードから判断して十分業務を委託できると話があったため、翌日から実際に出荷調製作業を委託することになりました。
- 今後の展開
(1)個別農家の課題に沿った重点指導
園地状況に関するアンケートを実施し、農家からの回答に加えて、現地での聞き取り調査を行って園地台帳を整備中です。
今後は、防除や施肥の指導に加えて、高樹齢化した園地の計画的な改植も指導する予定です。
(2)収穫作業労力の確保対策
農福連携の推進を目的として越知町農福連携支援会議の設立を計画しています。
今後は越知町農福連携支援会議を雇用希望情報と就労継続支援事業所とのマッチングの場として農福連携を推進し、サンショウ農家の収穫作業労力を確保と就労継続支援事業所への委託業務を確保を同時に進める予定です。
(3)担い手の確保対策
越知町では各地区で地域計画の策定に取り組んでいるところであり、地域内の合意に基づいて基盤整備を計画している地区もあります。
今後、基盤整備で造成した条件の良い農地で収益性の高いサンショウを作付けすることを検討しています。
農地の確保や新規就農者の研修受け入れ体制の整備を行うことで、越知町出身者のUターンによる就農等を促し、食用サンショウ栽培の担い手を確保していく予定です。
図5 青実収穫期のサンショウ
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