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グリーンフォーカス 令和2年10月

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中央東農業振興センター 農業改良普及課 : 2020/10/01

担い手の育成を核とした「物部ゆず」の産地力強化

  • 地域の現状

 高知県香美市の山間地域はユズ栽培が盛んで、日本一の青果出荷率を誇る産地です(図1、2)。しかし、地域の過疎・高齢化が進み、JA高知県香美地区物部柚子生産部会の部会員を対象として平成28年に実施した生産意向調査では、農家戸数の減少とそれに伴う耕作放棄園地の増加により、将来的に産地の維持が困難になると予想されています(図3、4)。


管内概要図

                     図1 管内概要図


青果出荷率

                     図2 青果出荷率



農家戸数

                     図3 農家戸数


出荷量

                     図4 出荷量


  • 活動内容

 農業改良普及課は、生産者部会及び地域の関係機関と共に結成している「ユズ産地協議会」の活動を通じ、新たな担い手を地域外から呼び込み、既存園地の管理を引き継いでもらう「地域で暮らし、稼げる農業」を実現できる仕組みを作ることで産地力の強化を図りました。
 <活動体制の強化>まず、「ユズ産地協議会」の体制強化に取り組みました。地域外から新規参入者を呼び込むため、移住・定住を支援するNPO法人を組み込みました。また、新規参入者や規模拡大志向の担い手にまとまった作業性の良い園地を集積するため、農地中間管理機構を組み込みました。
 <人材の確保・育成>担い手の確保に向け、ユズ産地協議会の定期的な開催を支援し、ユズ産地協議会で産地の特徴や魅力を共有し、産地が求める人材像や受入れ体制を産地提案書にまとめました(図5)。また、就農相談会や移住相談会に出向いたり、ウェブページを通じた情報発信を行った他、新規参入希望者に対して産地見学や短期研修を実施しました。
 得られた新規参入者の情報をユズ産地協議会で共有し、新規参入者を研修生として新規就農まで支援し、就農後は栽培面積1ha、売上600万円、所得300万円を目標に育成していく方針を決めました。研修生の指導を担う指導農業士を増員し、指導方法等の意見交換会を開催して研修生受入れに対する課題を明らかにしました(写真1)。また、部会のユズ栽培に対する共通認識をまとめた「研修生指導マニュアル」の作成へ向けて篤農家に技術を聞き取りしました。
 <園地の確保>一方、規模縮小意向の部会員の園地を生産樹付きで流動化できるように調整を行った他、新規就農者の経営が成り立つ園地面積を確保できるように、地域の地権者へ農地中間管理事業を紹介し、優良な園地が集積するよう働きかけました。
 <生産・流通・販売の強化>普及指導員や営農指導員が講師を務める、せん定技術等の現地研修会を開催する等、部会員が集って学び教えあう機会を作りました。また、果樹試験場で育成された省力化効果の見込める短刺系統の導入推進や、地域でも有望な果皮の硬い形質を持つ系統の調査を行いました。さらに、日本一の産地を内外にアピールする象徴として、地理的表示(GI)の登録へ向けて説明会を開催しました。



  • 活動成果

 <活動体制の強化>活動体制の強化により、新規参入希望者への情報提供が途切れないようにできました。産地提案書の公開や相談会の開催など、PRを進める仕組みができました。指導農業士は平成28~30年の間に4名増員でき、意見交換会がきっかけとなって「研修生指導マニュアル」の作成につながりました(写真2)。全戸に配布したマニュアルはユズ栽培の基礎技術や産地の生産者として基本となる知識を盛り込んでおり、新規就農者だけでなく古参の部会員にとっても基本を見直す上でよいと好評を得ました。
 <人材の確保・育成>平成28年から令和元年までに、地域外からの新規参入3戸、定年帰農2戸、親元就農3戸がありました。特に、地域外からの新規参入として、平成29年からは2戸、平成30年からは1戸を研修生として指導農業士が受け入れ、平成30年に1戸、令和元年に2戸が就農に至りました。新規就農者は計画当初の目標を達成でき、部会などの活動に積極的に参加してくれたことで地域の活性にもつながり、部会員から歓迎の声があがりました。
 <園地の確保>生産意向調査からは貸借や譲渡可能な園地が部会員も把握でき、農地利用計画作成の支援ができました。農地中間管理事業について、地域での理解が深まったことで円滑な集積につながり、令和元年までに計4.1haの園地を集積できました。これにより新規就農者の園地確保に役立てることができ、耕作放棄も回避できました。規模拡大を考えていた部会員からは事業があってこそ拡大を成し遂げられ、苗木を植えて育成しておく園地を持てたという声が聞かれました。
 <生産・流通・販売の強化>現地研修会は学び教えあう場となり参加者に好評で、産地全体がレベルアップしました。また、果樹試験場育成の短刺系統は、展示圃等によりその特性が理解され、新たに8a導入されました。さらに、地理的表示(GI)に「物部ゆず」が令和2年6月29日に高知県内の農産品では初めて登録され、他産地との差別化が可能となり、農家のブランド意識向上につながりました(写真3)。
 普及活動の結果、令和2年の農家戸数は171戸で、直近3年間の平均出荷量は1,150t、平均販売額は4.5億円であり、担い手の減少はやや緩やかになっています。新規参入者の就農は、産地全体で新規参入者を育成していく機運の醸成にもつながりました。特に、地域外の参入者を育成できた事例は今後に向けたモデルケースとなり、部会員及びユズ産地協議会の活動の自信につながりました。


産地提案書

                     図5 産地提案書


指導農業士対象の意見交換会

               写真1 指導農業士対象の意見交換会


研修生指導マニュアル

                  写真2 研修生指導マニュアル

 


地理的表示(GI)マーク

                 写真3 地理的表示(GI)マーク



  • 今後の展開

 産地提案書を充実させ、新規就農者確保に向けた就農支援情報の発信及び園地流動化の取り組みを継続していきます。収穫時の労働力不足に対して懸念の声も上がっていたため、JA無料職業紹介所の活用や地域内外からのアルバイターの確保等を強めるなど、多様な選択肢を確保できるように検討していきます。
 また、選果選別時の作業員不足に対応するため、「カイゼン」を活用した作業体制の見直しを行います。新型コロナウイルス感染拡大防止で大人数が集まれなくなったことから、季節ごとの栽培の要点等をまとめた「ゆず便り」を定期的に発行して届けていきます。生産性の向上及び有利販売へ向け出荷予測が正確にできるように、県域で進めているIoP(Internet of Plants)が導くNext次世代型施設園芸農業への進化プロジェクトを活用し、最新の園芸関連機器やIoT・AI技術を広く取り入れていきます。熟練農家の技能や葉の茂り程度など植物の状態を見える化し、最適なせん定程度を把握する研究や、収量・出荷量を撮影画像等より予測する方法を果樹試験場等と協力して取り組みます。
 今後も、「物部ゆず」のブランドを誇りに、青果出荷率日本一の産地を維持していけるよう、担い手の育成を核とした産地力の強化を進めていきます。




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