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グリーンフォーカス 令和2年7月号

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高知県農業技術センター : 2020/07/01

施設オオバのシソサビダニとモザイク病に対する総合防除体系の開発


  • はじめに

 オオバ(青シソ)は施設栽培で周年出荷されており、高知県内では地域を支える重要な品目となっています。ところが、2000年頃から葉にモザイク症状を生じる被害が見られるようになり(写真1)、多発すると3割程度の減収を引き起こすなど大きな被害を及ぼしていました。これらの症状の原因は長らく不明であったため、適切な防除対策を行うことができませんでしたが、2014年に本症状がこれまで知られていなかったEmaravirus属のシソモザイクウイルス(Perilla mosaic virus、以下PerMV)によって生じ、シソにさび症を起こすシソサビダニ(Shevtchenkella属、写真2)によって媒介されることが明らかとなりました。
 そこで、2015~17年度に農研機構、高知県、愛知県、大分県、法政大学により実施された農林水産省農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業において、PerMVとシソサビダニの生態の解明とこれらの検出技術の確立、各種防除技術を組み合わせた総合防除体系の確立に取り組みましたので、その一部を紹介します。



写真1 オオバのモザイク症状 写真2 シソサビダニ

   写真1 オオバのモザイク症状             写真2 シソさびダニ

                           フシダニ科のダニで体長は約0.15~0.2mm


1 総合防除体系の開発

 モザイク病とシソサビダニを効率的に防除するには、各種の防除技術を組み合わせた総合的な防除体系を開発する必要があります。そのため、これらの生態的特性を調査したところ、モザイク病は圃場外の伝染源からシソサビダニが侵入しPerMVを媒介することで発病すること、圃場内で一旦発病するとシソサビダニによって周囲の株に伝染して発病が拡大するため、シソサビダニの侵入を防ぐことが重要であることが明らかとなりました。また、シソサビダニは新しく発見された害虫であるため、シソサビダニに適用登録された農薬はありませんでした。そこで、シソサビダニに対する有効薬剤を探索するとともに、農薬の登録促進を図った結果、新たに6剤が「しそのシソサビダニ」に対して適用登録され、利用できるようになりました(表1)。そして、これらの成果を組み合わせて実証試験を行い、モザイク病の発病リスクの高い7~11月に栽培する作型での防除体系を組み立てました(図1)。



オオバで使用できるシソサビダニに効果のある薬剤


図1 施設オオバにおけるシソモザイク病およびシソサ

       図1 施設オオバにおけるシソモザイク病およびシソサビダニの防除体系


2 物理的・耕種的防除

 シソサビダニおよびPerMVの寄主範囲は、シソ科シソ属の植物に限られるので、伝染源になると考えられる圃場周辺のシソをできるだけ除去します。この時、雑草化している野良生えシソはもちろん、家庭菜園などで栽培されているシソも可能な範囲で除去します。また、オオバの育苗を収穫圃場で行うと、栽培中の株からシソサビダニやモザイク病が伝染する可能性があります。そのため、育苗は収穫圃場と別の場所で行い、少しでも感染が疑われる苗は定植しないようにします。
 PerMVを媒介するシソサビダニは、風に乗って圃場内に侵入するため、施設の開口部への防虫ネットの展張は有効です。4mm目合いの防風ネットは0.6mm目合いの防虫ネットと比較すると侵入防止効果は劣りますが、ネット無しと比較するとある程度の効果が認められます。ただし、目合いが細かいほど効果が高いので、可能な範囲で目合いの細かい防虫ネットを展張します(表2)。
 なお、圃場内で発病が見られた株は、シソサビダニが寄生している場合があり、周囲の株への伝染源になる可能性があります。発病株は、速やかにビニール袋に入れるなどしてから切り取り、圃場外に持ち出して適切に処分します。 


表2 ネットの目合いによるシソサビダニの侵入抑制効

3 化学的・生物的防除

 オオバは一斉に収穫するのではなく、圃場内で収穫する場所を変えながらほぼ毎日収獲するため、収穫前日数の制限が長い薬剤は収穫期間中には実質的に使用できません。そのため、育苗から収穫開始までの期間と収穫期間中とで使用する薬剤を分ける必要があります。
(1)育苗から収穫開始までの防除
 使用時期が収穫7日前以上の薬剤を使用します。栽培初期に感染すると被害が大きいので、発病リスクの高い7~11月に育苗、定植する作型では、収穫開始日を考慮しながら、育苗期にサンマイトフロアブルを散布し、定植後、マッチ乳剤、モレスタン水和剤、アファーム乳剤を概ね1週間毎に処理します。
(2)収穫期の防除
 収穫前日まで使用できるコロマイト乳剤またはアニキ乳剤を使用します。特に発病リスクの高い7~10月は散布間隔を1ヵ月以上あけないよう、定期的に防除すると効果的です。このため、(1)で最後に薬剤を処理した約1ヵ月後に、上記薬剤のいずれかを処理します。ただし、1ヵ月経たないうちにモザイク病の初発を確認した場合は、両剤のいずれかを直ちに処理します。また、11月以降、施設側面の開口部を閉め切ってからは野外からの侵入リスクがほとんどなくなりますので、閉め切り直後に両剤のいずれかを処理し、圃場内のシソサビダニの根絶を図ります。
 なお、2月以降にモザイク病やシソサビダニの発生が拡大することがあります。コロマイト乳剤とアニキ乳剤の使用回数は合わせて5回までですので、2月以降まで栽培が続く作型では、この時期の発生に備え、7~10月の使用は両剤合わせて3回以内にとどめ、施設開口部の締め切り直後と2月以降に1回ずつ使用できるようにします。もし、秋期に散布間隔が1ヵ月以上あく場合は、新たな発病が認められなくても、微生物農薬であるボタニガードESまたはボタニガード水和剤を処理するようにします。なお、微生物農薬には残効性は期待できません。


4 防除実証試験

 高知県農業技術センター内の圃場で、図1に示した総合防除体系の実証試験を行いました。その結果、本防除体系を基にした総合防除区では、シソサビダニの発生がほとんど認められず(図2)、シソモザイク病を累積発病株率で約10%に抑えることができました(図3)。また、7月下旬~3月中旬の収穫葉のうち対照区では約16%がモザイク病発病葉であったのに対し、総合防除区では0.3%でした(図4)。
 なお、シソサビダニおよびシソモザイク病の防除に要した資材費は薬剤費を含め約6万円/10aであったことから、オオバの平均単価を2,000~3,000円/kgとすると、モザイク病の発生によって20~30kg/10a以上減収している圃場では、本防除体系の導入が増益につながると試算されます。



図2 シソサビダニの発生推移

               図2 シソサビダニの発生推移

            注)直径3cmのリーフディスク60枚あたりの虫数を示す。


図3 シソモザイク病の発病株率の推移

                図3 シソモザイク病の発病株率の推移


図4 シソモザイク病の発病葉率の推移

                 図4 シソモザイク病の発病葉率の推移


おわりに

 本研究により、モザイク病が発生する原因が明らかとなり、PerMVの媒介虫であるシソサビダニを効率的に防除できるようになりました。また、関係機関と連携して本防除体系が広く普及したことにより、以前のようにモザイク症状の被害が多発することは少なくなったと考えています。
 なお、本防除体系のマニュアルについては、全国版が国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構のホームページ(http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/files/oobaboujyover320200601.pdf)、高知県版が高知県農業技術センターのホームページ(http://www.nogyo.tosa.pref.kochi.lg.jp/download/?t=LD&id=8219&fid=62727)からダウンロードできますので、参照してください。




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