グリーンフォーカス 令和6年10月号
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四万十町における酒米品種「吟の夢」の1等米以上比率の向上
- 地域の現状
高知県では酒造業が重要な産業の一つであり、清酒の原料となる酒米の生産振興が高知県産業振興計画に位置づけられ推進されています。
高南農業改良普及所管内の四万十町は、高知県の中西部に位置し、水稲作付面積が1,400ha程度ある県内有数の稲作地帯であり、四万十町においても、県育成酒米品種「吟の夢」が10数戸の生産者により年間30t程度(県内生産量の15%程度)生産されています。
しかし、近年では1等米以上の比率が10%以下と低くなっていました。そこで、高南農業改良普及所では、生産者の生産意欲や所得向上のために、2020年度より酒米品種「吟の夢」の1等米以上比率の向上に取り組んできました。
- 活動の内容
2等米以下への主な落等要因は「充実不足」(未熟粒の一種。全体的に充実の不十分な玄米で、具体的には粒が扁平である、縦溝が深い、皮部の厚い玄米等を指す。)であり、「充実不足」は高温登熟条件や不適切な施肥管理等によって発生が助長されます。各生産者の栽培履歴を調査したところ、「移植期が早い(高温登熟条件につながる)」、「施肥管理が速効性肥料の基肥施用のみとなっている(生育中後期の肥効が乏しい)」生産者が多く、これらが充実不足の発生を助長している要因と考えられました。そこで、これらの要因に関わる栽培管理改善に着目して1等米以上比率を向上させる活動を以下のとおり実施しました。
1)実証ほの設置
・「移植期の改善に関する実証ほ」
四万十町における「吟の夢」高品質米生産のための移植適期は、高知県農業 技術センターの試験結果により5月24日以降であることが示されています。しかし、2019年当時では四万十町の生産者の多くが5月24日以前の移植となっていました。そこで、実証ほを設置して、適期移植により検査等級が向上するか検討しました。
・「施肥管理の改善に関する実証ほ」
速効性肥料の基肥に加え穂肥も施用すれば生育中後期の肥効が得られ、高品質米生産につながることは周知の事実であるものの、高齢化や労働力不足により穂肥を施用できないことが問題となっていました。そこで、基肥施用のみでもある程度生育中後期の肥効が期待できる肥効調節型肥料の利用を促すために、実証ほを設置して、肥効調節型肥料による基肥施用のみでも、速効性肥料による基肥+穂肥施用に比べ、検査等級が低下しないか検討しました。
2)各種検討会の開催
1等米以上比率の向上に向けた検討会を栽培開始前の4月に開催し、実証ほの結果等を周知しました。また、5~9月の栽培期間中は定期的に現地検討会を開催し、水管理、病害虫防除、収穫時期等の高品質米生産に重要な栽培管理について適時に繰り返し周知しました。
- 活動の結果
1)栽培管理の変化
実証ほの設置によって、適期移植により検査等級が向上すること(表1)、肥効調節型肥料による基肥施用のみでも速効性肥料による基肥+穂肥施用に比べ検査等級が低下しないこと(表2)が示されました。
これらの結果を各種検討会(写真1)で周知してきたことにより、移植期は図1のように変化し、2020年度以降は5月下旬に移植した生産者数が70%以上となり適期移植が定着しました。また、肥効調節型肥料の利用が促され、速効性肥料の基肥施用のみの施肥管理を行う生産者は2024年度では0人となりました。
表1 移植期の改善に関する実証ほ結果(2020)
※移植期以外の栽培方法は地域の慣行法による。
表2 施肥管理の改善に関する実証ほ結果(2022)
※施肥管理以外の栽培方法は地域の慣行法による。
写真1 検討会(座学)の様子
図1 移植期別生産者数割合の推移
2)1等米以上比率の向上
1等米以上比率の向上に向けた活動によって、上記のように栽培管理が変化し、重要な栽培管理について現地検討会(写真2)で適時に繰り返し周知してきた結果、図2のように1等米以上比率が向上しました。また、2023年度においては特等米も22%の比率で得られました。なお、集計途中ではあるものの、2024年度も50%以上の1等米以上比率を確保できる見込みとなっており、1等米以上比率の高水準が定着しつつあります。
写真2 検討会(現地)の様子
図2 1等米以上比率の推移
※2024は集計中のため見込値。
- 今後の活動
1等米以上の比率は向上したものの、全国平均に比べ未だ低い状況で、さらなる品質向上を目指すためには、近年増加傾向にある斑点米カメムシ類やごま葉枯病等の病害虫防除において課題が残されています。また、肥効調節型肥料の利用が促されたものの、肥効調節型肥料は価格が高く、肥料コストの増加につながるため、ドローンによる安価な速効性肥料の穂肥施用といったより低コストで省力的な施肥体系を検討する必要があります。さらに、四万十町においては「吟の夢」の新規生産者が増加傾向にあり、また、実需者から特別栽培農産物基準に準じた酒米生産への要望も聞かれるようになりました。
高南農業改良普及所では、引き続き、上記のような様々な課題に対応しながら高品質な酒米生産を支援していきます。
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