ページの先頭です。

メニューを飛ばしてメインメニューへ

グリーンフォーカス 令和5年9月号

>> ホーム >> グリーンフォーカス 令和5年9月号

幡多農業振興センター 農業改良普及課 : 2023/09/01

高知県黒潮町の新規導入品目「ハイブリッドスターチス」生産の取組

1.地域の現状(背景)

 高知県幡多農業振興センター管内の黒潮町大方南部地区は花き類品目の主要産地で、令和4年度の農家戸数は、施設25戸・露地14戸で、栽培面積は13haとなっています。主な栽培品目としては、「シュッコンカスミソウ」、「テッポウユリ」、「ダリア」、「センリョウ」、「七立栗」、「リヤトリス」、「アガパンサス」などがあります。
 近年、大方南部地区では花き生産者の高齢化が進み、後継者も少ないことから生産者数が減少しています。そこで、既存品目よりも省力化が見込め、花持ちが良く収穫適期の幅が広い「ハイブリッドスターチス」(イソマツ科リモニウム属)の導入を検討し、その結果、令和2年度からダリア生産者2戸、ユリ生産者1戸がハイブリッドスターチスへ品目転換しました。
 農業改良普及課では、この有望品種の拡大に向け、JAと連携してハイブリッドスターチス“ブルーファンタジア”の栽培技術の確立に向けて取り組みました。


ダリア、宿根カスミソウ、テッポウユリ、センリョウ

2.活動内容

(1)地域適応性の検討(令和2年度~)
 まず、ハイブリッドスターチスの収量や栽培管理技術のほか、地域での適応性も不明であることから、導入農家のほ場における生育や
栽培期間中の施設内温度を測定し、当地域での適応性を確認しました。

(2)生理障害対策の検討(令和3年度~令和4年度)
 ハイブリッドスターチスは、うどんこ病、炭そ病、コナジラミ類といった病虫害の他に、花枝が枯れる生理障害(穂先枯れ)が発生
し、収量減少・等級低下の原因となり、問題となりました。
 そこで、生理障害(穂先枯れ)の対策を検討し、現地試験を実施しました。

(3)部会活動支援
 3ヶ月に1回程度、現地検討会を実施し、作の終了時に反省会でハウス内環境や生育状況、試験結果等の報告を行いました。
                                                


ハイブリットスターチス、穂先枯れ画像

3.活動成果

(1)地域適応性の検討(令和2年度)
 ハウス内の気温は、夏季にはいずれのほ場でも35℃以上となり、中には40℃に達するほ場もありました(図1)。冬季には最低気温が5℃程度まで低下したほ場もありましたが、株枯れなどの発生は見られませんでした(図2)。以上から、ハイブリッドスターチスは、夏季の高温や冬季の低温にも強く、環境適応性は比較的高いと推測され、当地域における栽培が可能であることがわかりました。一方、花枝の穂先が萎凋する生理障害(穂先枯れ)が周年的に発生し、問題となりました。
 6月に定植した1年目株の抽台の推移を調査したところ、10月上旬に1回目のピークが来た後、11~12月上旬は少なくなり、12月下旬以降に2回目のピークが来ることがわかりました。また、一作で1株当たり8~10本の収穫が可能であることがわかりました(図3)。


図1 図2
図3

(2)生理障害対策の検討

1)ホウ素、カルシウムの葉面散布
 穂先枯れの症状から、ホウ素欠乏やカルシウム欠乏症状に似ていることから、これらの要素欠乏を疑い、ホウ素(B)(0.3%)とカルシウム(Ca)(0.3%)それぞれの葉面散布を試験的に実施しました。

方法:所定の濃度に調整した溶液を、1週間に1回の頻度で葉面散布し、処理区(溶液を葉面散布)対照区(無処理)で各10株調査しました。
試験区:処理区(1)ホウ素(B)(0.3%)
    処理区(2)カルシウム(Ca)(0.3%)
期間:試験(1)(期間:令和3年4~5月)
   試験(2)(期間:令和3年9~令和4年4月)                                           

結果:試験(1)ホウ素の葉面散布は、処理区でも穂先枯れが多い時期があり、効果はありませんでした(図4、表1)。
   試験(2)カルシウムの葉面散布は、農家A、農家Cほ場ではカルシウム処理区がやや穂先枯れの発生割合が低く推移していましたが
       農家Bのほ場では、処理区でも多発しており、ほ場によって効果のばらつきが見られました(図5~図7、表2)。


図4

                                   


表1
図5
図6
図7

                                               


表2

                                                

2)こかげマルチ(白黒マルチ)の利用
 ハイブリッドスターチスの導入当初、夏場の高温を考慮し、地温上昇を抑制するタイベックマルチを導入しました。しかし、地温上昇を抑制できる一方で、土壌が乾燥気味となり、穂先枯れが助長されていると推測されました。そこで、保水性改善の目的で、こかげの白黒マルチ(トーカン)への変更を提案しました。

方法:それぞれの地温を測定し、穂先枯れの発生割合を調査しました(各10株)。
試験区:処理区(1)タイベックマルチ区
    処理区(2)こかげマルチ区
期間:令和4年9月~令和5年3月
結果:2023年1月1日の地温をそれぞれ測定したところ、タイベックマルチの方が夜間は3~4℃低くなり、日中もこかげマルチに比べて
   0.5~1℃低く推移していました(図8)。また、穂先枯れの発生割合を調査したところ、タイベックマルチの方が1~2月にかけて発生が
   多いのに対し、こかげマルチは、2月下旬に発生したものの、比較的少なく推移しました(図9、表3)。


図8
図9

                                               


表3

3)生産者の反応
 生産者からは、「タイベックマルチに比べてこかげマルチの方が比較的穂先枯れの発生が少ない」という意見が多く、令和6園芸年度は、すべての生産者がこかげマルチに変更することになりました。また、現地検討会や反省会を実施し、お互いの管理や生育を比較しながら、話し合う場ができたことで、管理の改善につなげることができました。


(写真1)現地検討会
(写真2)環境測定機器の設置

                                                                                                        

4.今後の展開                               

 生産者からは「開花時期にボリュームを確保するために灌水を控えるが、その時期に穂先枯れが出やすい」、「定植直後は灌水を多めにしないといけない」などといった声が聞かれました。一方、「冬期の収穫本数が少なく、単価の良い時期に出せない」といった意見も複数挙がりました。そこで、今後、農業改良普及課は、「厳寒期(12~2月)の収穫本数の確保」を課題とし、2番花の抽台の早進化に向けて取り組んでいきます。現在は、2戸のハイブリッドスターチス生産者が環境測定機器を導入しており、導入した生産者に対して、SAWACHI*利用の支援を行い、よりハイブリッドスターチスの栽培に適した環境づくりを探求することで、栽培技術の確立に取り組んでいきます。
 
*SAWACHI・・・高知県が生産者に向けて開発したIoPクラウドによる営農支援サービスのこと。




PAGE TOP